10月7日にこちらのイベントに開催ダッシュをキメてきました。
会場のポスターはこんな感じ。
今までのキモい展や寄生虫博物館に続く、僕の『少し変わったものが好き魂』を揺さぶってくれたイベントです。
目次
インパクトのある告知で話題に
『どうして』
この一言と共に、目隠しをされ跪く女性の絵によって告知されている怖い絵展。このポスターには見覚えがある方も多いのではないでしょうか?
引用:断頭台に散った、9日間の若き女王レディ・ジェーン・グレイ
処刑寸前の女性とその周囲の様子をたった一枚の絵で描いたこちらは『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。この展示会の目玉とも言える絵画です。
この『レディ・ジェーン・グレイの処刑』をはじめ、世界中の博物館や美術館に展示されている絵画が一同に介する今回のイベント。少し不気味に描かれた絵画に込められた意味や描かれた時代背景、隠された狂気等と共に紹介されています。
絵画系が苦手だからこそ訪れる価値あり
実は今まで、きちんとした美術館に行ったことがない僕。なぜかといえば、非常に飽きるから。
これまで訪れたキモい展や深海展は、とにかくインパクトが強かった。
日常生活の中で絶対に出会わない異形の生物や特殊なフォルムをしたものに会うのはとても心が踊ります。さらに言えば動きがありますしね。
しかし、美術展示はそうはいかない。基本は壁に掛けられた絵を観察したり、誰かが作った何かを見るばかり。
もちろんそれが面白いと思える感性を持つ方は十分楽しめると思いますが、大抵の人は飽きるんですよね。
当然展示物の説明は掲載されていることは多い。でもそれは一言二言で済まされるものであったり、「◎◎時代の印象派の××」というような専門的な知識でよくわからない。
絵の説明を読んでもイマイチ興味のそそられる内容でもないし……というような。
今回の展示も、その絵が描かれた背景や込められた意味の説明があるところはこれまでと同じ。
しかしなぜ心惹かれるのか。それは『人間が無意識に抱える様々な種類の恐怖』というものに触れることができるからだと思うのです。
『様々な種類の恐怖』とは?
今回展示された絵画に込められた『恐怖』とは、いわゆる「お化けが怖い!」とかの類ではありません。
夜の闇がなんとなく怖い
大事な人がいなくなるのが怖い
大切な友人に裏切られるのが怖い
貧乏なのが怖い
というような、誰もが日常で抱えうるような恐怖を背景とし出来上がっている作品が多いなあという印象なのです。
平和の中に潜む作者の狂気
例えば、今回の展示品のひとつに「クリオと子供たち」という作品があります。
『晴れ渡る大草原で、女神・クリオの話を熱心に聞く幼い子供達』という風景を描いた作品。非常に「平和でほんわかする絵だなあ」という印象を持つでしょう。
しかしよく観察すると女神の持つ書物に赤い斑点が飛び散っています。これは『血』。これによって平和な雰囲気が一気に崩壊します。実はこれは後から作者が付け加えたものなんですね。
なぜわざわざそんなことをしたのか?
実はこの絵を書いた後に、作者の息子が第一次世界大戦に徴収され亡くなっているのです。この知らせを聞いた作者のシムズは徐々に精神が衰弱していき、この血を書き足したと言われています。
作者は他にも作品展示がありますが、平和的な雰囲気の中にどこか闇を抱えたものばかり。この絵には、一見するとわからないような『作者自身が徐々に狂っていく様』が描かれているのです。
生首に執着する女性
作者は違いますが、同じく狂気を描いたのが『サロメ』という作品。こちらは『悪魔が支える受け皿の上に男の生首を納め、鬼気迫る表情で顔を近づける女性』を描いた作品。
こちらは打って変わり、初見から狂気が伝わる作品。かなりのグロテスクな描写です。
ではなぜ女性はこのようなことをしているかといえば、捻じ曲がっていますがある意味『純愛』とも言える感情が存在しているのです。
生首の男性は裁きを受け亡くなってしまった『ヨハネ』。ヨハネを愛していた『サロメ』はその生首を掴み、彼の生前には達成できなかった接吻という最高の幸せを手に入れている状態なのです。
絵面はグロテスク極まりない絵画。しかしその裏には、捻じ曲がっているとはいえ一人の女性の純愛とも取れる感情が込められているんですね。
狂気でありながら共感してしまう
どちらも人の狂気や怖さを描いた作品。僕らはこれを「非常に恐ろしいな」とは思いつつ、
「自分の子供が亡くなったら……」
「愛する人を永久に手に入れたら……」
と、どこかその行為に共感を覚えてしまうのではないでしょうか。本来は恐怖を抱くべき対象に。この展示会に心惹かれてしまう理由の一番はそこかと思います。
『恐怖は常に自分と隣り合わせの感情であり、その形は人それぞれ。そのどれもに幅広く触れることができてしまう』
というのが本イベントの醍醐味ではないかな、と。
絵の行間を読み取る面白さ
様々な恐怖に触れる、という面白さは読書における『行間を読む』という行為にも通づると思います。
その間に込められたストーリーを読み解き、目に見えない部分を想像する、という行為。
このイベントでは、絵画に込められた恐怖の種類を『神話・地獄・現実・死』というような形でジャンル分けしています。
そしてどの絵も、パッと見ただけではその絵に込められた真意(と思われるもの)を把握するのはなかなか難しい。
説明文+ナレーションが揃って初めて真にその絵のことを把握できるのではないかな、と。
男を豚に変える女
展示作品の一つに、『オデュッセウスに盃を差し出すキルケー』というタイトルの絵があります。
こちらの絵は、裸体を晒し、妖艶な顔でこちらに盃を差し出す美女という、なんともエロティックな感じを抱かてくれる作品。
もちろんこれにもある恐ろしい意図が。実はその女性は、魔女。美貌を武器に、寄ってきた男たちに盃の中身を飲ませ豚に変えてしまうという能力を持っています。絵をよーく見ると豚の姿が書いてあるんですよね。
この豚に変えられた部下を救うために訪れてきたオデュッセウスという男も書かれているのですが、意外な展開が待ち受けます。
なんとこの魔女と恋仲に落ちてしまうんですよ。まあ男なら気持ちは痛いほどわかるでしょうが……。
妖艶な美女と対面したら、多少なりとも判断が鈍る生き物ゆえ。これは連作の絵になっていて次の絵にその続きが描かれています。
この絵にも『豚に変えられてしまうという恐怖』の中に潜む男の悲しき性、すなわち『女性の性的な魅力には抗えない』という共感ポイントがあり、僕もつい「わかる、わかるぞ、部下よ……」という気持ちに。
加えて、一枚の絵だけでは読み取れないストーリー性も楽しむことができます。結論、この男性も生きてはいるのですが次の絵ではまた別の方面でピンチに陥ります。
ただ「どうしてそのような状況に陥ったのか」ということは絵のみだとなかなか読み取ることはできません。
絵だけでは読み取れない様々なストーリー展開。この『行間』を読み取ることがこの絵の面白さの一つ。さらにそのストーリーの中に、繰り返し述べていますが『人間にとって身近にありうる、様々な種類の恐怖』が含まれることによって、より親近感の湧くストーリーに仕上がっているのです。
ガイド音声はかなりオススメ
このイベントは絵画+説明文だけでも十分楽しめます。が、個人的には音声ガイドも併用することをオススメ。入り口付近で貸し出されている音声ガイドを借りると、対応箇所の絵画部分でさらに詳細な説明を聞くことができます。
ナレーターは女優の吉田羊さん。このナレーションがまた心地良い。
『高慢な女性からこんな風に飲み物を勧められて、断れる男がいるだろうか?』
単純な絵画の説明に終わらない、まるで小説のような語り口。吉田さんのうっとりする声と相まって、僕らをこの絵が描かれた当時の世界へと誘ってくれます。
さらに、この展示会の元となる『怖い絵』の著者・中野京子さんによるこのイベントへの思いやボーナスコンテンツも楽しめます。
値段は550円。たった、ワンコインと少しで、イベントを数倍楽しめるんじゃないかなと僕は思います。
まとめ
このように、美術嫌いでも必ず楽しめる要素満載の怖い絵展。やはり、恐怖のような『隣り合わせであるにもかかわらずどこか非日常的な感覚』が味わえるイベントはゾクゾクしますね。
『僕らにとって身近な感情である恐怖』
『あらゆる恐怖が散りばめられたストーリーを読み解く面白さ』
身近な感情を読み解くにもかかわらず、どこか別の世界のような雰囲気も楽しめる今回の絵画展、一度訪れてみるのはいかがでしょうか?
展示会情報
公式サイトはこちら。
開催期間は『10/7〜12/17』さらに、『〜11/15は前期・11/16〜は後期』という風に分けられており、一部の展示が衣替えするようです。もう一回行こうかな……。
おまけ
イベントの最後には、展示されている絵と共に記念撮影できるブースもありますよー。
家族連れの方が多い中、一人でこういった記念撮影をすることもおかげさまで慣れました。